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東欧の想像力3
ハーン=ハーン伯爵夫人のまなざし
エステルハージ・ペーテル[著]/早稲田みか[訳]
2008年11月28日発行
定価:2200円+税
四六判・ハードカバー・328ページ
ISBN:978-4-87984-265-7 C0397
※出荷を完了いたしました

内容紹介

  ドイツのシュヴァルツヴァルト(黒い森)から黒海まで、中央ヨーロッパを貫く大河ドナウ川。その流れに沿って町から町へと移動する「プロの旅人」が、行く先々から雇い主に向けて、旅の報告書を送る。しかしその内容は、旅行報告の義務を平然と無視し、時空を超えて自在に飛躍していく……
  作者エステルハージの言によれば「ドナウ川の本にして、歴史の本、恋愛の本、中央ヨーロッパを風刺する本、反マグリスの本、旅行記、レストラン・ガイド、混沌の本、本の本」(マグリスとは、近年ノーベル賞の候補に挙がっているイタリアの文学者クラウディオ・マグリスのこと。彼が1986年に著した『ドナウ』に対抗して、エステルハージはこの本を書いたと述べている)。
  作品の随所に引用がなされていることも、本作品の(あるいはエステルハージ作品の)特色のひとつ。イタロ・カルヴィーノの『見えない都市』が臆面もなく、大量に引用されている部分があるように、文学作品はもちろんのこと、歴史書や民話、新聞、雑誌、広告、各種パンフレット、はてはポルノ雑誌にいたるまで、さまざまなテキストが引用されている。それら引用とエステルハージ自身のテキストがとけあって渾然一体となり、さまざまな支流が流れ込むドナウの流れとともに、小説は進んでいく……。
  なお、「ハーン=ハーン伯爵夫人のまなざし」というタイトルは、ハインリヒ・ハイネ晩年の著作『告白』の、当時の女性作家たちについて言及した次の表現に由来する。「彼女らが文章を書くとき、一方の目は紙に、もう一方の目は男の方に向けられている。そして、こうしたことはすべての女流作家について言えるのである。ただし、ハーン=ハーン伯爵夫人は例外である。目が一つしかないのだから」。


著者・訳者紹介

エステルハージ・ペーテル  Esterházy Péter, (1950- )
  ハンガリーの首都ブダペストに生まれる。ハンガリーの名門大貴族エステルハージ家の末裔にあたる。
  第二次世界大戦を経てハンガリーで共産主義政権が成立すると、それまで支配階級だった貴族や資産家が人民の敵と見なされ、さまざまな差別や迫害の対象となった。エステルハージ・ペーテルの家庭も財産を没収され、数年間、地方に強制移住させられている。また、のちに大学に入学する際、貴族出身であるがゆえの制約から人文系には進むことができず、数学を専攻したという。
  20代中ごろから小説を書き始め、1979年の『生産小説』で作家としての地位を確立。社会主義リアリズムやドキュメンタリズムに代表されるそれまでのハンガリー小説とはおよそ異なるポストモダン的なスタイルによって、賛否両論の大反響を呼びおこした。その後、『心の助動詞』(1985)、『純文学入門』(1986)、『フラバルの本』(1990)、『ハルモニア・ツェレスティス』(2000)などを発表。作品は英独仏伊語ほか20以上の言語に翻訳され、国内外でもっともよく知られたハンガリー作家のひとりである。
  エステルハージは、『砂時計』の作者ダニロ・キシュと親交があり、『ハーン=ハーン伯爵夫人のまなざし』にはキシュが登場する。また、『あまりにも騒がしい孤独』を書いたボフミル・フラバルを敬愛し、『フラバルの本』という小説を書いている。
  なお、エステルハージ・ペーテルの弟マールトンは、ハンガリー・ナショナルチームのメンバーとして活躍したプロのサッカー選手であった。ペーテル自身、サッカーへの強いこだわりがあり、『ペナルティエリアの彼方に』という作品も刊行している。

早稲田  みか
  国際基督教大学卒業、一橋大学大学院修了。
  現在、大阪大学世界言語研究センター教授。専攻はハンガリー語学。
  著書に、『ハンガリー語の入門』(白水社)、『図説ブダペスト都市物語』(河出書房新社)など。
  訳書に、クラスナホルカイ・ラースロー『北は山、南は湖、西は道、東は川』(松籟社)、ジョン・ルカーチ『ブダペストの世紀末』(白水社)などがある。


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関連書

※シリーズ「東欧の想像力』各巻

カルヴィーノ『見えない都市』(河出書房新社)
マグリス『ドナウ ある川の伝記 』(NTT出版)


 
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